「クルークマエ参上!」

私のうちの大家さんが、原因不明の病気にかかりました。
お仲間とお酒を飲んで楽しく騒いだ、その日の夜に、ひどい頭痛がしたそうです。
そしてその日の朝から、彼の腰と足が痛み出し、歩けないほどになりました。
彼は床屋をしているのですが、『カニ職人』の異名を持つほどの遊び好き。
(カニ職人とは、カニのように、捕まえようとしても捕まらない、つまり、いつもどこかに遊びに行っていないという意味です。)
そんな彼が、ずっと家でじっとしている日々が続きました。
私も、彼の奥さんも、近所の人たちも、みんな彼のことを心配するほど、容態は良くありませんでした。


血液検査をしても、何の以上もなし。原因不明で、打つ手なしの彼、そして奥さんは、
ついに『クルークマエ』を呼んだのです!
クルーとは、『先生』の意味です。クマエとは、『カンボジア』の意味。
カンボジアの先生?いいえ、クルークマエとは、カンボジアの伝統呪術師なのです。
彼らは、ありとあらゆる術(技術)で、病気を治したり、悪い霊を追い出したりする、
西洋医学とは一線を画した方法で治療を行うのです。
過去に私はおばあちゃんのクルークマエに会ったことがありますが、彼女は、自分で薬草を調合し、骨折も即座にその薬で治してしまうのだと豪語していました。

 ではでは、大家さんのクルークマエの場合は...
大家さん夫婦は、お家から1時間ほど離れた都市に行き、あるクルークマエに会いました。
彼は、初めて会った大家さんの過去の略歴から、近所にどんな人が住んでいるのかを、見ただけで当ててしまったそうです!
そして彼に病気を見てもらったところ、「亡くなった先祖の霊に対しての敬意が足りないから、この病気になった」と指摘されました。
仏教徒ですが、お寺に行くこともなく、先祖の霊に対するお供え物とか、そういうこと全然しない大家さんでしたので、ギクッとしたようで、早速大切な鶏とカモと一匹ずつしめ、お供え物として供え、更に、プレアプームと呼ばれる、各家庭を守る神様のお家(祭壇のようなもの)を作りました。

 

祝福を受ける大家さん夫妻

祝福を受ける大家さん夫妻

裕福ではない大家さん一家にとっては痛い出費のはずですが、そんなことを気にしていたら、病気は治りません。
きれいなプレアプームが家にやって来たその日、見知らぬ男が家の庭に入って来ました。
「誰だろう?」と思っていると、その彼が、いろんなことをズバリと言い当ててしまう、クルークマエだったのです!
わざわざ遠くの都市から呼んできたようです。
私は興味津々、ホットニュース魂がうずき、彼に取材を試みることにしました。
どんな人か分からないので、失礼に値しないように、はじめは自己紹介から、そして、「カンボジアの文化、習慣を学び、日本の人に伝えたいのです」と仰々しく伝えたところ、彼は心よく写真をとることを受け入れてくれました。

彼はまず、家の風水を確認し、「ここでスラオイタックをしたほうが良い」と決めました。
スラオイタックとは、水を浴びる清めの式です。
よくお坊さんや、アチャーと呼ばれる仏教の祭司がやっている儀式ですが、彼もそれをするようです。



風水を調べるクルー


風水を調べるクルー


スラオイタックスラオイタック


すると、おもむろに、F4(ドラマ「花よりだんご」の香港バージョンから派生したアジアの人気グループ)のバッグから、ハサミやかなづち、包丁と鎌といった、物騒な道具を取り出しました。

F4バッグF4バッグ


「まさか!?」と私は思い、「彼の足をぶった切るのですか?」と恐る恐る聞くと、
クルークマエは大笑いし、「違うよ、これも儀式のひとつ」と、バナナの葉っぱの上にそれらの道具を置き、スラオイタックをする場所に設置しました。

物騒な道具物騒な道具


そこで大家さんは水浴びの儀式をすませ、しばらく休憩になりました。
ヘビースモーカーのクルークマエと、タバコを吸いながら、休憩時間にいろいろと質問をしました。


「どうやってクルーになったのですか?どうやって技術を身につけたのですか?」
「技術は、先輩のクルークマエに弟子入りして教わったのさ。彼がいろんな人を癒しているのを見て、自分もなりたいと思ったのさ」
と、気さくに答えてくれました。
「今作っているのは何ですか?」
「ああこれ?これは自前の薬草を調合しているところさ。これでたちどころに病気は治る!」

薬草の調合薬草の調合


そしてその薬を調合し終えた後、なにやら紐を結わえ始めました。
「何を作っているんですか?」
「これは、悪い霊から身を守ってくれるお守りさ」
「へえ~。私もいろんな人がそれを腰に巻いているのをみたことがあります。鍵がついているから、てっきり財産を守るために、鍵を身につけているものかと思いました」
「別に泥棒よけではないけど、財産を守るという意味ではあたっているよ」
知らないことばかりで、私も興奮して来ました。

お守りを結えるお守りを結える


いろんな作業を済ますと、もうすでに昼頃になっていました。
「さて、これからプレアプームをどこに置くか決めよう。」
と、クルーは紐で、私の2階の部屋の踊り場辺りから紐でちょうど45度くらいをはかり、「ここに設置しろ」と命令しました。
即座に、雇った肉体労働者が、せっせと土をほり、セメントでお堀を作り、プレアプームを設置する作業をしました。

プレアプームを設置する場所を測るプレアプームを設置する場所を測る


お昼に、お供えしたカモをみんなでおいしく頂き、肉体労働者はせっせと働き、クルー他一同は、みんな昼寝を始めました。
夕方になり、プレアプームの設置を終えました。

プレアプームプレアプーム


ふと大家さんを見ると、タオルケットを全身にかぶり、何かをしていました。
すごく落ち込んでいるのかと心配になった私は、
「ちょっと、大丈夫!?」と声をかけました。
すると大家さんは、
「大丈夫。スポンをしているところだよ」と、汗だくの顔で答えました。
スポンとは、さきほどクルーが調合した薬つぼを沸騰させ、その蒸気をすって治療する方法です。

スポン中スポン中


その後は、決しておいしくはないであろうその薬の汁を、直接飲んでいました。
なかなかに病気の治療は苦労をともなうものです。
クルーはその後、プレアプームの祝福の儀式を終えると、
「私は今日はここに泊まり、彼と一緒に寝て、容態を見て確かめる。責任があるからな」と、私たちと一緒に夜ご飯を食べ始めました。

私は彼にお酒をふるまい、トランプゲームで彼と仲良くなろうと試みました。
「クルー、トランプは出来ますか?」
すると彼は、
「おお、君は日本人なのにトランプが出来るのか?ぜひやろう!」
と目を輝かせ、彼と一緒にトランプを楽しみました。
そして、けちょんけちょんに負かしてやりました。私はトランプが強いのです。
「いや~、参った。お酒もこの辺にして、そろそろ寝るわ」
と、彼は大家さんと一緒に寝床に着きました。


朝起きると、彼はいなくなっていました。大家さんがおうちまで送っていったようです。
面白い体験が出来たことに、感謝です!
ちなみに、後日談ですが、その後も一向に大家さんの病気はよくならず、カンボジアの首都プノンペンの病院へ行き、MRIで検査したところ、椎間板ヘルニアだということが分かりました。
原因がはっきりしたおかげで、大家さんは今、毎朝骨髄を牽引する運動をして、随分楽になっているようです。


でもでも、決してクルークマエのやったことが意味のないことだとは思いません。
先祖を敬ったり、悪い気を追い出したり、伝統的な治療法に頼ることは、誤った迷信などではなく、むしろ、先人達が築いた来た、守るべき伝統だと思っています。
だから、人の良い、トランプの弱いクルークマエが、またお家に来て欲しいなと願っています。

蛇足ですが、クルークマエに、「お世話になりました。もう大丈夫です」と印籠を渡すときは、手切れ金を渡すようです。

結構儲かるのでしょうか?いやいや、私の会ったクルークマエは、F4の汚れたバッグを持って、安いタバコを吸っていた、人の良い方でした。
カンボジアのクルークマエが、信仰深い人たちをこれからも救ってくれることを祈りたいと思います!

このブログ記事について

このページは、jlmmが2009年1月19日 16:54に書いたブログ記事です。

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